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「バー 龍樹」幻視の霧 Ⅸ

 駅前にある巨大なショッピングモールへは、車でペンションからバイパスを通って数分ほどで着いた。だが、そのバイパスまで出る道は、実際どこをどういう風に通って出たのかが詩緒理には解らなかった。何しろ、ペンションから出た直後からまた霧が更に濃くなり、隣で運転しているはずの大樹の顔さえ判らないほどだったからだ。しかも濃い霧の中にもかかわらずだいぶ速度が出ていたような気がするのは、自分の錯覚だったのか・・・ ともかく、あっという間にバイパスに出てしまったような気がしたのだった。

「よく、あんな霧で平気で運転できますね」

「ん~、慣れ・・・かな?・・・」

 大樹はそういうと口元を微かに緩ませた。

 確かに、‘慣れ’といわれれば、そうかもしれない・・・

☆~☆~☆

 冬夜に頼まれたテーブルクロスやらランチョンマットやら、こまごまとした雑貨や調味料などを大樹は一人で抱え持ち、詩緒理を驚かせた。

「少しもちましょうか?」

「大丈夫だよ、これでも結構力持ちだからさ」

 そういって大樹は詩緒理にウインクをした。

「でも、さすがにこの量は・・・ 一度、車に置いてくるか・・・」

 そうつぶやくと、詩緒理にしばらく待っているように言いおいて車の方へ歩いていってしまった。

 一人になると詩緒理は改めて周囲を見廻した。オフシーズンということもあって客足は疎らだが、それでも活気があって前に来た時よりも店舗数が増えていた。そんなことを考えていたが・・・

 ’前って、い・・・つ・・・・?’ ふと、詩緒理の頭に疑問が沸いてきた。確か自分は軽井沢に来たことは・・・無かったはずではなかったか?・・・

 何故か詩緒理は、あの濃い霧の中にいるかのような自分でも解らない何か、何故か急に胸騒ぎを覚える気持ちに囚われた。

「詩緒理・・・ 具合でも悪いのか?」

 そこへ大樹が荷物を置いて帰ってきた。

「大丈夫・・・ 少し考え事してただけ・・・」

 詩緒理は大樹を心配させないように笑って見せた。大樹はその様子に少し眉を寄せて顔を覗き込むようにしてみていたが、自分の取り越し苦労だったのかと、微笑み返してくれた。

「後は、生鮮食品だけだな これは一番後で・・・」

 そう詩緒理に確認していると、なにやらショッピングモールの先に続く林の方角から悲鳴や人々のざわめきが聞こえてきた。しかもどこからか救急車のサイレンの音も近づいてきていたのだった。

「何かあったのかな?」

 大樹はそちらの方角から走ってきた数人の内の一人を捕まえて、事情を聞いていたが、詩緒理がその騒ぎの方へと引きつけられるかのように歩き出すのを見ると、話もそこそこに彼女を追いかけた。

 林には数人が何かを探しているかのように棒で辺りを突いているのが見え、警察官らしい姿も見えた。

「どうやら、自殺体が見つかったようだ」

「自殺?・・・」

「ああ、まだ若い女性で・・・」

 大樹がいい終わらないうちに詩緒理は林の方へ走り出し、途中でそれに気づいた制服の警官に咎められた。

「放してください! 放して!」

 詩緒理は半ば半狂乱になって警官の制止を振り切ろうとしたところを、大樹に後ろから引きとめられた。詩緒理はその腕にしがみ付くように・・・

「若い女性って・・・姉さんかも・・・」

 彼女の消え入りそうなくらいの微かなつぶやきで事情を察した大樹は、警官に事情を説明しだした。すると警官は肩口に付いていた無線でどこかへ連絡しだし、やり取りの中でうなずいたり確認のため復唱したりしていた。

「では、確認していただけますか?」

「はい 詩緒理、俺が確認してくる・・・ ここで待っていられるか?」

 大樹は酷く真っ青な顔をした詩緒理に確認は無理だと判断して、そういった。詩緒理は微かにうなずくとその場にうずくまるように座り込んだ。

「それじゃ、案内お願いします」

 大樹は座り込んでしまった詩緒理を残していくことは躊躇われたが、警官とともに林の中へと入っていった。

☆~☆~☆

 林の中から大樹が警官とともに戻ってきたのは数分後だったが、詩緒理には何時間も過ぎたような感じがして震えが止まらなかった。

「詩緒理・・・大丈夫か?」

 大樹は詩緒理の腰を抱くようにして立たせると、建物の方へと歩き出した。詩緒理は林の方を振り返りながら大樹の顔を見て・・・

「姉さんは・・・」

「大丈夫だ・・・ 違ったよ」

「姉さん・・・じゃなかったの?」

「ああ、俺が確認した 若い女性といってもまだ十代くらいの少女だったよ」

 それを聞いた詩緒理はふと、力が抜けてよろめきそうになったが、支えてくれていた大樹のおかげでそうはならなかった。

「そう・・・ 姉さんじゃあなかったの・・・」

「ああ」

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